薬剤師の実態・悩み - 薬剤師求人キャリアコラム -
薬剤師の離職率の高さを、逆の視点から考えてみる
なぜ離職率が高いのか?
先日、調剤薬局で働いているベテランの薬剤師の方から、「若い薬剤師の離職率が高くて困っているが、どうやって解決すればいいのかよく分からない」という相談を受けました。
このように、せっかく採用した薬剤師がすぐに辞めてしまうことに頭を抱えている調剤薬局や企業は非常に多いようです。
ちなみにいつもは転職を考えている薬剤師さん向けに書くコラムですが、今回は「薬剤師の離職率の高さ」を逆の視点から見てもらえるように薬局の経営者や薬局長にアドバイスをした内容をコラムにしています。
一人の薬剤師を採用する為にはかなりのコストが掛かります。
募集~面接~採用までには、ある程度の時間や手間も必要になりますし、転職支援会社を介して薬剤師を採用することになれば、雇用の成約時にかなりの額の手数料(正社員の採用で100~150万円が相場です)を支払わなくてはならないのです。
これだけ多くのコストを掛けたのにも関わらず、採用後すぐに辞められてしまったのでは、経営上かなりの損失になってしまいますし、このような事が続くようであれば、経営を続けていくこと自体が困難になってしまいます。
それに、離職率が高い職場で発生する問題は、お金や手間等のコストだけではありません。
一人の薬剤師が辞めてしまったとしても、すぐに後任の薬剤師が採用できればまだマシなのですが、実際多くの職場では、すぐに後任を採用することができず、そのしわ寄せが残っている他の薬剤師にいくようになってしまい、その残っている薬剤師も仕事の量や精神的な負担に耐え切れず、転職を考えるようになってしまうのです。
この「離職率」の問題は、経営者側だけの問題ではありません。
そこで働く薬剤師の方にとっても、職場環境に大きな影響を与える問題です。
今回のコラムは、高い離職率に頭を悩ませている経営者や人事担当者に向けて、離職率を改善する方法について述べていく内容になりますが、実際の現場で働く薬剤師の方にとっても、逆からの視点で職場環境の改善の参考になることもあるはずです。
何が離職率を高める原因になっているのか?
まず、大前提として、法律や法令を遵守していないブラック薬局やブラック企業は論外です。そのような薬局や企業は、職場の改善云々以前に、法律や法令に則った経営を行わなければ何を改善しても上手くはいきません。話はそれからです。
※ブラックがどういうものかよく分らないという人は、以下のコラムをご確認ください。
→コラム「転職時にブラック調剤薬局か見極める5つのチェックポイント」
では、先に進めます。
既に辞めてしまった人や辞めようと決意している人から、本当の理由を聞き出すことは非常に困難になります。
多くの場合、やむを得ない家庭の事情だったり、より高いスキルの習得やキャリアアップの為といった体裁の良い理由しか聞き出せません。
しかし、高い離職率を改善する為には、その原因を知る必要があります。
まずは、調査会社によるデータから原因を探っていきましょう。
以下は、調査会社による「薬剤師の転職理由」のデータです。
1.結婚・出産・育児・介護などプライベートな問題(19%)
2.仕事の内容が不満(18.5%)
3.労働時間休日等の条件が悪い(16%)
4.その他(12.5%)
5.職場の人間関係が好ましくない(11.5%)
6.会社の将来が不安(10.5%)
7.給与等収入が少ない(9.0%)
8.定年・契約期間の満了(2.0%)
9.会社都合(1.0%)
上記のデータを見る限り、それぞれ個別の事情はあるにせよ、9つの項目の中にほとんどの転職理由が含まれているようなので、それらをしっかりと改善していくことが離職率の改善に繋がっていくと考えても良さそうです。
まず、「1.プライベートな問題」「4.その他」「8.定年・契約期間の満了」「9.会社都合」の4つの理由ですが、これは改善のしようがありませんので、残りの5つの理由を基に、更にその原因を深く掘り下げ、それぞれの改善方法を考えていきたいと思います。
それぞれの離職原因を改善する方法
『仕事の内容に対する不満』
仕事の内容に対する不満は、薬剤師によって大きく違ってきます。
・毎日、同じ作業の繰り返しに嫌気が差している人
・もっと、やりがいを感じられるようになりたいと思っている人
・一人ひとりの患者さんに対して、もっと積極的に関わりたいと思っている人
・今の職場で身につけられる知識やスキルだけでは、不満がある人
・職場内の同僚と比較して、仕事内容や量に不公平を感じている人
・・・・etc
複数の薬剤師がいれば、それぞれ考え方や求めるものが違うのは当り前です。
仕事や知識やスキルの習得に前向きな人もいれば、同じ給料ならできるだけ楽に働きたいと考えている薬剤師もいるのです。
こういった問題を解決する場合に重要なことは、「薬剤師はこうあるべき」「薬剤師の仕事はこれだけ」といった決め付けや価値観の押し付けをしないことです。
それぞれの薬剤師一人ひとりに個別に話を聞く機会を設け、「何がしたいのか?」「何がしたくないのか?」「将来どうなりたいのか?」「何に不満を感じているのか?」を、しっかりと聞き出すようにしましょう。
1回では難しいいかもしれませんが、こういった機会を何回も重ねていけば、お互いに信頼関係が生まれ、本音を話してもらえるようになったり、改善の為のヒントを聞き出せるようになるはずです。
すべての要望を叶えてあげることは難しいかもしれませんが、「この人(会社)は、自分の意見を聞いてくれる」そう思ってもらえるだけでも十分な効果があります。
『労働時間や休日等の勤務形態、給与に対する不満』
こういった条件の問題を解決する場合に最も大事なことは、「契約時の条件がきちんと守られているか?」ということです。
薬剤師の転職理由を上記に挙げていますが、労働時間等の勤務形態や給与が問題になるのは、多くの場合「入社前に交わした約束と、実際に働きだしてからの内容が異なる」というものです。 どのような雇用契約を結んだとしても、約束はしっかりと守ることが大前提です。
しかし、そうはいっても、法律や法令の改正、周囲の環境の変化による患者の増減等の影響によって経営状況が変わってしまうことが少なくないですし、それによって、当初約束していた条件を守れなくなることだってあると思います。
その場合、問題になるのは、条件が変わってしまった理由を、「きちんと相手に納得してもらえるように伝えているか?」ということです。
「経営状態が悪いから仕方ない」「社員も我慢するのは当り前」そういった考えを持っている限り、このような問題を解決することはできません。
「何故、そうなってしまったのか」「どうなれば元に戻るのか」「その為にどうしていくつもりなのか」「どれくらいの時間が掛かるのか」・・・そういったことを真摯に伝え、事情を理解してもらうことに努めてください。
事情を理解し納得してくれれば、他に大きな問題がない限り、簡単に辞めていってしまうようなことは少なくなるはずです。
『職場の人間関係に対する不満』
上記のデータでは5番目の理由になっていますが、実際に転職の現場に携わる者からすると、この人間関係に対する不満が、1位2位を争う転職理由だと感じています。
薬剤師が働く職場は、「閉鎖的な環境」「女性が多い職場」「一人作業が多い」「ルーティンワークが多い」・・・等の理由から、人間関係の問題が発生しやすいと言われており、その原因はかなり根深く、多くの職場を悩ませている大きな問題となっています。
その内容も、些細な嫌がらせから集団での無視行為やイジメ、パワハラ、セクハラ等の大きなものまで多種多様であり、その被害者が感じる苦痛はかなりのものになります。
そのすべての対処法をここに記載するのはとても無理なので、重要なポイントだけをお伝えしますが、人間関係を改善する為に一番重要な事は、「その職場で働く人同士が、出来るだけお互いのことを理解できるように努めること」です。
人間関係が悪化する原因の多くは、相手に対する無理解や誤解、勘違いや思い込みです。
そして、それらを解消する為には何よりもコミュニケーションが重要なのです。
例えば、ある特定の社員に人間関係悪化の原因があったとしても、その人はその人なりの独自の考え方や価値観や物事に対する尺度を持っています。
そういった人に対して、いくら正論や理屈や論理で改善を促そうとしても、そう簡単に受け入れてはくれません。それどころか、ますます意固地になってしまいます。
基本的に、人を理屈や説得で変えることは不可能です。
経営者や上司が出来るのは、職場で働く人同士が理解し合えるような場や環境を提供することだけです。
そういった場や環境があれば、お互い、相手の意外な素顔や普段の行動の源泉が垣間見れるようになるかもしれません。
相手に対して、それぞれの背景や事情を知り、その人の環境や考え方、価値観や物事に対する尺度を少しでも理解することができれば、接し方も変わってくるはずです。
ミーティングでも、食事会でも、飲み会でも、誕生会でも構いません。
出来ることから始めましょう。
『将来に対する不安』
将来に対する不安は、会社の将来と自分の将来の2つに分けられます。
会社の将来に対して、そこで働く人が不安を抱く最も大きな原因は、「情報の格差」や「情報不足」にあります。
経営者や上司は知っているのに、自分だけが知らない
他の社員は十分理解しているのに、自分だけ理解できていない
明らかに情報が隠されていると感じている
・・・・etc
そういった時に、そこで働く人は、経営者や上司に対して、不安感や不信感を抱きます。
出すべき情報はしっかりと開示するようにしてください。
隠しておいて後になって知られてしまった、というのは最悪のパターンです。
自分が胸襟を開けば、相手もそれに応えてくれることだってあります。
人は隠し事する人を信用せず、逆に、何でも教えてくれる人を信用し応援するものです。
次は、自分の将来に対する不安です。
そういった不安を抱えている人の多くは、「このままで大丈夫なのだろうか?」「後になって困るのではないか?」「もっと良い方法があるのではないか?」と考えています。
結婚や子育てや親の介護等、プライベートに関する将来
このまま働き続けて得られる収入に対する不安
知識やスキルの習得や、キャリアアップに対する不安
・・・・etc
人は誰でも、それぞれに個別の事情や不安を抱えているものです。
そういった不安を少しでも解消してあげようという姿勢があるかどうかは、そこで働く人にとって大きな影響を与えます。
個別に話を聞く機会を設け、可能な限り対処することを伝えましょう。
実際に対処することができなかったとしても、会社や経営者や上司に対する信頼は高まるはずです。
基本が一番大事
それぞれ、個別の原因に対して改善法をお伝えしてきましたが、どのような問題を解決するにしても、基本的なことや当り前のことが一番大事なことに違いはありません。
・法律や法令等のルールを守ること
・一度交わした約束はきちんと守ること
・人を不公平に扱わないこと
・約束が守れなくなった場合には、きちんと理由と対策を説明すること
・人には、思いやりを持って接すること
・相手の事を頭から否定せず、相手の存在を尊重すること
・無理矢理自分の考えや価値観を押し付けたりしないこと
・自分ばかりでなく、相手の話もちゃんと聞くこと
如何ですか?
小学生でも分るような当り前のことばかりではありませんか?
雇用する側と雇われる側、指導する側とされる側、立場は違っても同じ人間同士です。
きちんと話し合い、お互いを理解することで、多くの問題は解決できるはずです。
薬剤師だけでなく、職場で働くすべての社員に対して、「管理」ではなく「育てる」意識を持って接するようにしてください。
最初が肝心
最後に、もう一つだけ、離職率を改善する為の重要なポイントをお伝えしておきます。
それは、「最初が肝心」「同じ失敗を繰り返してはならない」ということです。
次に新しい薬剤師が入社してきた時にどうするのか、事前にしっかりと現状の問題分析を行っておくこと、対応策を練り上げておくこと、それを確実に実践できるように準備しておくことが重要になります。
何時、誰が、何を、どのように、どれくらい行うのか?
様々な問題が発生した場合にどう対処するのか?
しっかりと検討し、同じ失敗だけは繰り返さないようにしてください。