調剤薬局 , 転職のポイント - 薬剤師求人キャリアコラム -
【調剤薬局】個人経営 vs 大手チェーン
薬剤師の就職先って?
薬剤師の就職先にはいくつかの選択肢がありますが、中でも、最も多くの薬剤師が働いているのは調剤薬局で、その数は、全国に54,000件以上(2010年度調査)もあり、コンビニの44,000件をも大きく上回っています。
実際のデータでも、薬大生の約3割が就職先として調剤薬局を選んでいますし、薬剤師の転職市場においても、調剤薬局の案件が最も多いように見受けられます。
それだけ薬剤師を募集している調剤薬局が多いということは、様々な選択肢の中から自分に合った働き口を選べるということですから、現在の状況は、就職先や転職先を探している薬剤師にとって非常に有利と言えるでしょう。
しかし、現実では、多くの薬剤師が、「良い条件の調剤薬局に就職出来た」と思っていたのにも関わらず、数ヶ月~数年という短い期間で、せっかく就職した調剤薬局を辞めたり、もっと良い条件を求めて転職を検討したりするようです。
何故、このようなことが起こっているのでしょうか。
調剤薬局の薬剤師が転職を考える理由には、人間関係の問題や環境の変化、就職前と後のギャップ、将来に対する不安等、様々な要素がありますが、それらを生み出す要因として考えられるのは、調剤薬局に対する認識が不足しているという事です。
これはどういう事かと言いますと、調剤薬局に就職しようとする薬剤師の多くが、調剤薬局に関して充分な知識を持たずに、目先の給料や勤務地であったり、勤務体系や福利厚生といった条件ばかりに気を取られて就職してしまい、その結果、「自分に合わなかった」「思っていた仕事と違った」という状況に陥ってしまっているということです。
違いを理解することが大事!
では、このような状況に陥らないようにするには、どうすればいいのでしょうか。
その答えは、条件云々以前に、「個人経営と大手チェーンの調剤薬局の違いと、どちらが自分に合っているかをしっかりと理解すること」です。
個人経営と大手チェーンの調剤薬局の違いをしっかりと理解し、本当に自分に合った調剤薬局を見つけ出せるようになれば、就職や転職をしてしまった後で後悔する確率を大きく下げることが出来るようになるのです。
個人経営の調剤薬局vs大手チェーンの調剤薬局
○業務内容の違いは?
〔個人経営〕
① 調剤業務:医療機関の医師が出す処方箋を持って薬局に訪れる患者に対して、指定された薬を調剤する業務
② 服薬指導:薬の服薬方法や服用時間、効能や保管方法を、患者に分かり易く説明・指導すること。また、患者が既に服用している薬を確認し、薬の効果や安全性についての情報を医師に照会することも行う
③ 薬歴管理:患者のアレルギー歴や体質、喫煙・飲酒の有無等の生活状況や環境を聞き取ることで、飲み合わせや過剰処方によるトラブルを防ぐ
個人経営・大手チェーンに関わらず、調剤薬局の薬剤師の主な業務は上記の3つですが、個人経営の調剤薬局に訪れる患者は、長年通い続けている顔馴染みといった人も多く、患者の相談にしっかりと応じることが出来るので、コミュニケーションが得意な人に向いていると言えるでしょう。
〔大手チェーン〕
主な業務内容は個人経営の調剤薬局と同じですが、大手チェーンの場合には、通常業務に加えて本社に提出すべき書類を作成する必要があります。
しかも、その量は非常に多いので、個人経営と比べると仕事はかなりハードです。
○どっちが働き易い?
〔個人経営〕
薬剤師の退社や休みに備えて予備の薬剤師を雇っておく必要があるのですが、経営に余裕がなかったり、思うように薬剤師を雇用出来なかったりする薬局もあるようです。
そのような職場では、有給休暇が取れなかったり、他の人の負担を考えると・・といった理由で休みが取り辛くなったりすることもあります。
職場内の人間関係においては、大手チェーンよりも良好な職場が多いようですが、人間関係が悪い職場に当たった場合には、逃げ場がないので最悪です。
〔大手チェーン〕
余裕を持って薬剤師を雇用していたり、系列店舗間で調整することが可能なので、有給休暇や急な事情による休みを取ることは問題なく出来るようです。
但し、上記でも述べたように、仕事は忙しく残業は当り前といった職場環境です。
職場内の雰囲気は、上昇志向の人が多いことに加えて仕事もハードなので、人間関係がピリピリしていることも多いようです。
また、転勤も覚悟する必要があるでしょう。
○どっちの収入が高い?
〔個人経営〕
大手チェーンよりは、比較的に高い傾向があります。
その理由として挙げられるのは、やはり薬剤師の採用に苦労しているということです。
大手チェーンと比べると、知名度、信頼度、安定性、職場環境の充実度等において、個人経営の方が不利な状況ということは否めません。
給料を上げることで、なんとか薬剤師を確保したいという思いの表れと言えるでしょう。
ただ、就職当初は高い給料を得られるかもしれませんが、昇給の際の評価基準が経営者個人の裁量に大きく左右されるといった事が考えられますので、注意が必要です。
〔大手チェーン〕
個人経営と比べると、低い傾向があります。
筆者の感覚では、特に、会社の規模が大きいほど給料は低いという印象です。
但し、人事評価や昇給のルールは、個人経営と比べてしっかりしているので、その辺の公平性は担保されていると言えるでしょう。
○職場環境や教育環境の違いは?
〔個人経営〕
経営的にあまり余裕のない調剤薬局だと、古い設備を使い続けざるを得なかったり、業務の効率化が図られていないこともあります。
スキルアップや学びの環境についても、(すべての個人経営の調剤薬局という訳ではありませんが)あまり充実しているとは言えません。
スキルアップや何らかの資格を取得したい場合には、自分で学ぶ意思と環境を用意する覚悟が必要になるでしょう。
ただ、大手チェーンの調剤薬局と比べると、取り扱う医薬品の種類が少ないので、それほど知識を得るための勉強が必要ないと捉えることも出来ます。
また、残業や転勤がほとんどないというのは、人によってはメリットだと思います。
気をつけるべきなのは、日々の業務は同じことの繰り返しということが多いので、そういったことが苦痛という人は、個人経営は避ける方が無難だということです。
〔大手チェーン〕
会社の規模が大きくなればなるほど、日々の業務の効率化を図る必要がある為、様々な設備が充実しており、個人経営では得られないようなITスキルや数値管理のスキル、レセプトに関する知識等を身につけることが出来るようになります。
教育環境においても、様々な研修や勉強会が用意されているので、新薬に関する知識を得たりスキルを高めるには最適な環境と言えるでしょう。
こういった環境は、ブランクがある薬剤師や経験が浅い薬剤師にとっては、就職後の不安を軽減出来る良い材料となるはずです。
但し、労働環境は非常に厳しいです。上下関係や社会での基本的なマナーは勿論、日々の仕事をこなす為には、必要となる様々なスキルを身に付けなければやっていけません。
また、上記でも述べたように、残業と転職は覚悟する必要があります。
○キャリアパスの違いは?
〔個人経営〕
経営の規模にもよりますが、多くの個人経営の調剤薬局では、管理薬剤師や薬局長止まりだと思われます。
経営者に特別気に入られたり認められれば、経営に参画することが可能な場合もありますが、それは極めてレアなケースであり、あまり現実的とは言えません。
〔大手チェーン〕
一般的には、薬剤師→管理薬剤師→エリアマネージャー→支店長→支部長・・・というキャリアパスが用意されていることが多いようです。
頑張り次第では、本部でのマネジメント職やそれ以上の職に就ける可能性もあります。
○どっちが将来性がある?
〔個人経営〕
コラムの冒頭で、調剤薬局の数はコンビニよりも多いと言いましたが、調剤報酬や薬価の改定によるマイナスの影響や、調剤基本料の見直しの可能性も考慮すると、調剤薬局を取り巻く環境は厳しくなっていくことが予想されます。
そうなってくると、当然、体力のない企業は淘汰や廃業を余儀なくされたり、大手チェーンの傘下に入る等、M&Aが加速することになります。
現状、充分な数の患者がいれば大丈夫と思われますが、応需している病院の患者数が減るようなことになれば、それは薬局の売上げに直結してくるので注意が必要です。
また、個人経営の場合には、現在の経営者の年齢や今後の方針、後継者の有無も、薬局の将来に大きく影響を及ぼします。
〔大手チェーン〕
企業の収益構造としては、薬を一括大量仕入れ出来るというスケールメリットや、最新の設備による業務の効率化を徹底していることから、大手チェーンの方が有利です。
但し、大手チェーンなら安心という訳ではありません。
大手チェーン同士でもM&Aの可能性はありますし、上層部の不祥事や利益重視の姿勢による顧客離れによって経営が傾くことだってあるのです。
中には、ブラック同然と思われるような業務を平気で行っている大手チェーンの調剤薬局も存在しているようです。
※注意事項
如何でしたでしょうか?
個人経営の調剤薬局と大手チェーンの調剤薬局の違いは理解して頂けましたか?
書いてある事の中には、知っていたこと知らなかったこと、様々なことがあったと思いますが、一つだけ注意して欲しいことがあります。
それは、上記で述べた内容は、あくまで筆者の経験や知識に基づくものだということです。
すべての個人経営の調剤薬局が、上記の内容に当て嵌まる訳ではありません。
すべての大手チェーンの調剤薬局が、上記の内容に当て嵌まる訳ではありません。
個人経営の調剤薬局の中にも、しっかりとした収益構造を確保していたり、優れた教育環境を用意していたり、薬剤師が安心して働けるような労働環境作りを徹底しているところはたくさんあります。
大手チェーンの調剤薬局の中にも、経営状況が悪化していたり、まともな教育環境を用意していなかったり、ブラックとしか思えないような労働環境だったりという企業もたくさんあります。
このコラムを読むことで、個人経営と大手チェーンの基本的な構造や傾向を知り、自分がどちらで働きたいかを決める材料の一つとして頂ければと思います。
就職や転職先を検討する際には、事前にしっかりと情報収集を行うことを忘れないようにしてください。