キャリア , 独立開業 - 薬剤師求人キャリアコラム -
薬剤師のキャリアアップ、失敗しない独立開業は? 【前篇】
独立開業で得られるもの
超高齢化社会の到来、人口減少、社会保障費の増大、薬価や報酬の改定、規制緩和、薬科大や薬学部の新設ラッシュ、競争激化による業界の再編・・・・etc
薬剤師を取り巻く環境は、日々大きく変容し続けています。
このように先行きが不透明な状況になってくると、自分の現状や将来に不安を感じて、自分のキャリアを改めて考え直そうとする人も多いのですが、最近の傾向として、「独立開業」を検討する人が増えているようです。
以前であれば、私の元に訪れる薬剤師の方の相談内容といえば、「転職」や「キャリア」に関することがほとんどを占めていたのですが、最近では、それと並行して「独立」や「薬局開業」を視野に入れている人の割合が少しずつ増えてきています。
個人的には、自分の将来を真剣に考え、理想の未来を実現しようと高い志を持ち、実際に行動を起こそうとするのはとても素晴らしいことだと思っています。
独立して薬局開業を失敗させない為に
ただ、「独立」や「薬局開業」を検討している薬剤師の方の多くが、「独立」や「薬局開業」に対する考え方であったり、実際に考えている進め方が少しズレていて、私から見ると「本当に大丈夫かな?」「このままでは危ないかもしれない?」といった不安を感じることも多々あります。
今回のコラムは、薬剤師の「独立」や「薬局開業」について、独立して薬局開業する為には、
・どのような目的や理由が必要なのか(持つべきなのか)、
・どのようなメリットやデメリットがあるのか
・成功する為には何が必要なのか
・どのような事に注意すべきなのか
そういったことについて、綺麗事だけではなく本音で述べていきたいと思います。
人によっては少々刺激的な内容に感じるかもしれませんが、「独立」「薬局開業」は成功すれば大きな成果を手に出来る反面、失敗すれば多大な痛手を負うリスクを伴うものですから、表面的な見栄えの良い部分だけを語るという訳には当然いきません。
「独立」「開業」を検討している人は勿論ですが、「独立」「開業」はする気がないという人であっても、薬剤師としてのキャリアを積み上げていく上で参考になることも多いと思いますので、是非、最後まで読んでみてください。(個人的には、一度くらい真剣に独立新規開業を検討してみてもよいと思っています。考えることで、間違いなく将来への視野が広がることになりますので、おすすめです。)
※薬剤師の「独立」「開業」といえば、調剤薬局の開業ということが現実的な選択肢になると思われますので、それを前提に話を進めていきます。
「独立」「開業」する目的と理由
「独立」や「開業」というと、「調剤薬局を取り巻く現状を変える」「地域に貢献する」「薬剤師の未来の為に」「患者さんの為に」・・・等、何か崇高な目的や理由がなければならないと考える人もいるようですが、まったくそんなことはありません。
人それぞれ、個人的な目的や理由で良いと思います。
何故なら、上記のような崇高な目的や理由を持つのは確かに素晴らしいことですが、あまりにも抽象的過ぎて具体的な成功像を明確にすることは出来ませんし、理想や目標が高すぎるとモチベーションを維持するのも難しくなってしまうからです。
崇高な目的や理由を持たなければならないと考える人の中には、世の中で成功していると言われている人の話であったり、そういった人の著書等で、「世の為」「人の為」「理想の社会を実現する為」・・・といったことが語られていることから崇高な目的や理由が必要だと思われるのかもしれませんが、実は、誰からも成功と言われるほどの成果を手にしている人に直接会って話を聞いてみると、公の場で話していることと、実際の言動に大きなギャップがあることも少なくありません。また、そういったものは無理して作る類のものではないですし、自然に内からにじみ出てくるものがあれば、それは人として幸運なことだと思います。
成功者は最初から崇高を目的意識を持っていたのか?
確かに、起業当初から崇高な目的を持って成功を収めた人もいるのですが、そのような人はごく稀な存在であり、初めは、まったく個人的な理由で始めた事業が徐々に大きくなっていった結果として、崇高な目的を持つようになったという成功者が大半を占めるというのが実状なのです。
とにかく、「独立」「開業」する場合には、“当初の”目的や理由は何でも良いのですが、しっかりと明確にしておくことが重要になります。
何故なら、それがモチベーションの源泉や逆境に打ち勝つ力にもなるからです。
「店舗展開して、年収3,000万円以上は稼ぎたい!」
「豪邸に住んで、高級車を乗り回したい!」
「お金を気にせず、飲み食い出来るようになりたい!」
「これ以上、無能な経営者や上司に扱き使われたくない!」
「自分を馬鹿にした薬局経営者や薬局長のアイツを見返してやりたい!」
・・・・・etc
といったような、まったく個人的な理由でも良いですし、
「今までにない、本当に患者さんの為になる薬局を作りたい!」
「今の職場で無理なら、自分で理想の職場を作るしかない!」
「自分なら、もっと上手く経営出来るはず!」
「理想のライフスタイルを手に入れるには、自分で開業するしかない!」
・・・・・etc
といった理由でも全然構わないのです。
人によっては、「そんな低俗な理由で成功するはずがない!」「薬局を経営する人間は、もっと高い志がなければならない」という方もいるかもしれません。
しかし、冒頭でも述べたように、「独立」「開業」して薬局の経営を安定させる為には、綺麗事だけでは上手くいきません。
実際に「独立」「開業」すれば、思い通りにいくことの方が少ないものですし、時には、泥臭いことをしなければならないことだって多々起こりえます。
高過ぎる理想しか持たずに「独立」「開業」してしまうと、その理想と現実のギャップに苦しんだり、何らかの壁が立ち塞がった場合に、それを乗り越えるだけの力やモチベーションを維持することが難しくなってしまうことも多いのです。
一番に大事なことは、高い理想を叶えることではなく、独立を失敗させないことです。
自分の力で薬局を一から作り上げるのには、それなりの資金や労力や時間といったコストが必要になりますし、たった一度の失敗でそれを失ってしまうと、人によっては再起不能といえるほどの痛手を被ってしまうことになります。
それだけは、絶対に絶対に避けなければなりません。
それに、上記の成功者の例のように、人の考え方は経験によっていくらでも変わります。
「独立」「開業」当初にどのような目的を持っていたとしても、経験を積むことによって人間としてのレベルが上がっていけば、それなりの目的や目標を持つようになっていくのは必然であり、それが人間の生き方というものだと思います。
富士山に登ったことがない人には、絶対にあの経験や景色を語れないのと一緒です。子供にビールの美味しさは、絶対に分かるはずはありません。(し、分かってもらっては困ります。。。)
「独立」「開業」のメリットとデメリット
調剤薬局を開業する為には、資金・労力・時間といったコストの投資が必要になりますが、そういったリスクを取るからには、「独立」「開業」することのメリットとデメリットをしっかりと把握しておく必要があります。
メリットとデメリットについてはっきりと把握出来ていない人、「独立」「開業」するかどうか迷っているという人は、是非、今後の参考にしてください。
■メリット
メリット①:成功すれば大きな収入が得られる
調剤薬局に関する情報には、業者間での競争の激化、業界の再編や統廃合の進行、薬価や調剤報酬の改定や規制緩和による経営への影響といった、調剤薬局に関してマイナスな情報も多く、調剤薬局の将来に不安を抱いているという人も多いのではないでしょうか。
しかし、現実には、調剤薬局の経営で大きな収益を上げている企業は数多くあります。
調剤薬局の経営で大きな収益を上げているというと、大手チェーンの調剤薬局を思い浮かべる人も多いと思いますが、実は、数店舗~数十店舗を経営している小規模企業の多くもかなりの高収益を上げているのです。
実際、私が知っている調剤薬局の経営者には、経営が上手くいっていないという人もいますが、中には、驚くほどの収入を得ている人も多数います。 豪邸に住んでいる人、会う度に最新の高級車に乗りかえている人、経費を使って夜のお店で豪遊している人・・・等もいますし、調剤薬局の経営で稼いだ資金を元手に、多店舗展開だけでなく、新たな事業を興している人もいます。
メリット②:個人や小規模企業でも大手チェーンと対等に戦える
ほとんどの調剤薬局の収益構造は同じであり、個人と大手でも大きな違いはありません。
薬の販売価格は国が定めて同じですし、基本的には調剤報酬も同じだからです。
また、大手チェーンやフランチャイズ展開をしている企業の売り文句の一つに、「薬の大量仕入れや共同購入によるメリット」がありますが、実は、独自店舗の経営者にしてみれば、さほど大きなメリットにはなり得ません。
何故なら、大手チェーン薬局の傘下に入ったり、フランチャイジーになった場合、多少薬の仕入れ価格は下がるかもしれませんが、それ以上のロイヤリティを支払わなくてはならないからです。
調剤薬局は、全国に54,000店舗以上(これはコンビニの約40,000店舗を上回ります!)あるといわれていますが、大手チェーン上位5社の売上げ合計でも、市場の10%にも満たないとされています。
また、3店舗以上展開してる小規模企業も実は全国に3,000以上存在しています。
こういったことも、個人や小規模企業が大手チェーンと対等に戦えるということを証明しているのではないでしょうか。
メリット③:経営が安定しやすい
開業の初月から黒字化する為には、それなりの事前の戦略と準備が必要になりますが、多少時間が掛かってしまったとしても、ある程度の処方箋枚数を確保出来るようになってくれば、比較的安定した店舗経営が可能になります。
顧客化した患者さんは、よほどのことがない限り他の店舗に取られることはありません。購入する商品(医薬品)も同じで、その価格も同じであれば他に移る理由がないからです。 また、販売代金の回収リスクがないことも大きなメリットになります。
但し、国の政策によって、薬価や調剤報酬が変動したり、規制緩和によってビジネスモデルの変更を余儀なくされることになる可能性だけは否めないかもしれません。 国が赤字経営を強いるようなことは考え難いですが、これから調剤薬局を開業する場合には、調剤だけに過度に依存しないようなビジネスモデルであったり、他の想定されるリスクに対応出来るような仕組みを予め考え、構築しておくことが必要になるかもしれません。
■デメリット
デメリット①:国の政策の影響を受ける
上記したように、社会保障費の抑制を目的として、今後も薬価や調剤報酬の改定が予測されると思いますし、医薬品のネット販売の解禁のように、調剤薬局の経営に影響を与えるような規制緩和が行われる可能性もあります。
今後の調剤薬局の経営においては、そういったリスクを想定した仕組みを構築しておくことが重要になってくるでしょうから、あくまでも薬局経営は規制業種であるという認識を持つ必要があります。
デメリット②:応需している医療機関の影響を受ける
当り前のことですが、調剤薬局の経営は、応需している医療機関からどれだけ処方箋を持った患者さんを集められるかに大きく左右されます。
例えば、門前薬局は安定した売上げが見込めるというメリットがありますが、組んだ医療機関が思ったより集患できなかったということもあり得ますし、その医療機関が何らかの事由によって急に廃業してしまうという可能性もあります。
だからといって、調剤薬局の空白地に面対応などで出店すれば上手くいくという訳でもありません。この問題をいかにクリアするかが、「独立」「開業」の成否を大きく左右します。 立地選びは、慎重過ぎるほど慎重に行うようにしてくださいね。
デメリット③:医薬品の不良在庫や廃棄ロス
調剤薬局の収支構造は、その割合のほとんどを保険調剤に依存している店舗が多く、その内訳は、
・薬剤費が73%
・技術料が27%
となっています。
毎年数多くの新薬が販売され、近年では、ジェネリック医薬品の増加により、多くの種類の医薬品を在庫として抱える必要性が高まっていますが、これらのことは、調剤薬局にとって不良在庫や期限切れ医薬品の廃棄ロスを生む要因であり、調剤薬局の経営に大きな影響を与える事になります。
しかし、最近、こういった状況に改善の兆しが見え始めてきています。
これまでの対策としては、1包装当りの個数が少ない医薬品であったり、分割しやすい包装になっている医薬品を仕入れることで、不良在庫をや廃棄ロスに対処してきましたが、最近では、ネット上で、調剤薬局同士が余剰在庫を自由に売り買い出来るサービスが広まってきているのです。
このサービスを利用すれば、余剰在庫を期限が切れる前に売ることもできますし、必要な医薬品を1錠から購入することもできるので、調剤薬局の仕入れリスクを大幅に減らすことが可能になります。開業する場合には、是非、利用してみては如何でしょうか。
※薬局の医薬品売買サービスの詳細は、
→http://www.yakuyaku.jp/ (調剤流通市場YakuYaku)
デメリット④:人材(薬剤師)の確保が難しい
薬剤師の貴方ならお分かりだと思いますが、個人経営で、しかも実績がない新規開業の店舗で働く人材(薬剤師や医療事務)を集めるのは非常に難しくなりつつあります。
「独立」「開業」というと、多くの人が店舗を作ることを優先しがちになりますが、どれだけ立派な店舗が出来たとしても、そこで働く人がいなければ経営は出来ません。
大手チェーン薬局やドラッグストアが採用に力をいれているので、思っているよりも人材採用が上手くいかないことを想定に入れておいたほうがいいかもしれません。
さらに人材集めは、店舗が出来てからではなく、早めの対処が肝心です。相手があることなので、タイミングはこちらではなかなかコントロールできないものだからです。
薬剤師のキャリアアップとして、「独立」「開業」はありますが、そのことのメリットとデメリットはご理解頂けましたでしょうか?
「独立」「開業」することで何を手にしたいのか、何を優先させるのかは人によって違うと思いますが、メリットとデメリットを理解することで、ある程度の価値判断の基準が出来たのではないかと思います。
薬剤師のキャリアアップ、失敗しない独立開業とは? 【後編】では、薬剤師が「独立」「開業」を成功させる為には何が必要で、どのような事に注意しなければならないのかについてお話します。
この2つは「独立」「開業」を成功させる為にもっとも重要な要因になります。
「独立」「開業」について多くの人が間違えていることについてもお話しますので、「独立」「開業」に興味があるという方は、是非、一緒に読んでみてください。
薬剤師のキャリアアップ、失敗しない独立開業とは? 【後編】
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