異業種参入で薬剤師の将来はどう変わる?【後篇】

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異業種参入で薬剤師の将来はどう変わる?【後篇】

薬剤師の役割が変わる?

コラムの【前編】では、「どのような異業種企業が参入しているのか?」「なぜ異業種企業の参入が増えているのか?」ということについてお話し、業界の内外を問わず、医薬品の販売や調剤ビジネスに対する認識が変わってきていることを理解することの重要性を提言してきました。

【後編】では、【前編】の内容を踏まえた上で、「異業種企業の参入によって、既存の業界にどのような影響があるのか?」という事と、その影響によって、「薬剤師に求められる役割や働き方はどのように変わっていくのか?」という事について考えてみたいと思います。

この2つの問いは、多くの薬剤師の方にとって、今後のキャリア構築の方向性を左右する大きな要因となりますので、しっかりと理解するようにして下さい。

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異業種企業の参入が業界に与える影響

それでは、まず様々な異業種企業が参入することによって、調剤薬局、ドラッグストア、病院といった既存の業種や業界全体にどのような影響を与えるのか、ということについて考えてみたいと思います。
異業種企業が既存の業界に与える影響には様々なものがありますが、中でも大きなものは、

『既存の常識や競争原理が塗り替えられ、従来のビジネスモデルが通用しなくなる』
『環境の変化に伴って、お客(患者さん)の価値観や選択基準が変わる』
『個人経営や中小企業にとって厳しい状況になっていく』

この3つです。

例えば、これまでは、門前や駅前等の好立地に店舗を構え、お客(患者さん)にその存在を認識してもらうことさえ出来れば、処方箋を持った数多くのお客を集められていました。

しかし、【前編】でお話した、『膨大な店舗数に加え、病院の外来規制、マイナンバー制の施行、リフィル処方箋の導入検討、地域包括ケアシステムへの移行等によって、これまで最も重視されてきた「立地」という強みが大きく減少していくようになります。』といった事に加え、従来の“薬を作って渡すだけ”という形式の店舗とは違い、参入企業の既存事業とのコラボ店舗といった、新たな付加価値を持った魅力的な店舗が増えてくると、お客が処方箋を持っていく店舗を選ぶ基準が変わり、各々のお客は、最も自分のニーズや要望に応えてくれる店舗を利用するようになっていくと考えられます。

更に、現状ではコンビニやスーパーといった流通小売企業や一部の家電量販店であったり、医療関係や介護関係といった既存の業種に近い業種の参入が主でしたが、今後も、様々な業種の企業による参入が相次ぐことが予測されており、処方箋の獲得競争が一層激化していくことは間違いないと言えるでしょう。

そして、様々な業種の企業が参入し競争が激化してくると、各々の企業や店舗が少しでも多くのお客を集める為に知恵を絞って、あらゆる方策を取ってくるようになり、どれだけ秀逸なマーケティング戦略や経営戦略を立てられるか、どれだけ具体的な施策を実行する資源や能力があるかということが、どれだけの数の処方箋を集められるかに繋がってくるようになります。

つまり、人・物・金といった経営の三大資源をどれだけ持っているかが、それらの資源をいかに有効に活用出来るかということが、将来の勝ち組と負け組みを分ける非常に重要なポイントになってくるのです。

そのような状況になってしまった場合には、どうしても人・物・金で劣る既存の個人経営や中小企業は非常に苦しい立場に陥ってしまうようになり、余程のビジネスアイデアや付加価値を生み出せない限り、大手の傘下に入るか、他の企業と合併するか、若しくは廃業するかといった選択をせざるを得なくなってしまうと考えられます。

また、異業種企業の参入が相次ぐことによって処方箋の獲得競争が激化し、医薬品の販売や調剤ビジネスが単なる“集客手段の一つ”になるといったように既存の常識が塗り替えられたことで、調剤薬局やドラッグストア業界の多くの企業では、これまでのビジネスモデルから脱却しようとする動きが顕著になってきています。

例えば大手調剤薬局では、スケールメリットを活かして収益を上げるといった従来の規模拡大路線の方針を転換し、以下のような取り組みを進めています。

・莫大な資金を投じ長期に渡って多くの処方箋が見込める立地を確保する(一極集中する)
・医療モール等を建設して集中的に処方箋を集められる環境を自ら作り出す
・自社で医薬品の製造や販売を行ったり、医療分野専門の人材サービス等、既存の事業と相乗効果が見込める新事業を手掛ける
・調剤偏重や立地偏重から脱却し、新たな付加価値を加えたビジネスモデルへ転換する
・・・etc

上記のように、大手調剤薬局が取っている施策の多くは人・物・金といった資源を豊富に持っている大企業ならではのものであり、とても個人経営や中小企業が真似できるものではありません。

何れにしても、このような施策を取ってくる大企業に、限られた資源しか持たない個人経営や中小企業が対抗し、激しい競争を勝ち抜いていくのは非常に難しい状況になっていくということはお分かり頂けると思います。

 

ここまでの説明で、異業種企業の参入が与える影響はご理解頂けましたでしょうか?

少し分かり難い部分もあったかと思いますので、簡潔にまとめます。

つまり、

異業種企業の参入が増えることで、
既存の常識や競争原理が塗り替えられ、
お客(患者さん)の価値観や選択基準が変わり、
処方箋の獲得競争が一層激化する状況になると、
豊富な人・物・金という資源を持っている大企業が有利な状況になり、
お客のニーズや要望に応える付加価値を生み出せない個人経営や中小企業は苦しくなる

ということです。

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異業種企業の参入によって薬剤師が担う役割や働き方はどのように変わっていくのか?

異業種企業の参入が増えることは、業界や既存の企業に大きな影響を与えるということはご理解頂けたと思います。

では、それらの影響は薬剤師の働き方にどのように作用するのでしょうか?

【前編】でお話したように、調剤報酬の改定、法改正や規制緩和、病院の外来規制、マイナンバー制の施行、リフィル処方箋の導入検討、地域包括ケアシステムへの移行等といった要因によって、保険調剤業務だけでは規模拡大によるスケールメリットを活かせなくなるどころか、経営の維持も困難になっていくという見通しを立てる企業が増えています。

更に、2012年の時点で、調剤薬局は約54000店舗、ドラッグストアは約17000店舗と既にオーバーストア状態にあることに加え、異業種企業の参入によって既存の常識や競争原理が塗り替えられ競争が激化したことから、多くの企業や店舗では、従来のビジネスモデルから脱却しようとする動きも加速しています。

当然、こういった動きは、それらの企業で働く薬剤師にも大きな影響を及ぼします。
単純に言えば、企業側が「調剤業務だけでは生き残れない」と認識し、その認識を前提とした対策を検討していく以上、現場で働く薬剤師にもそれ相応の変化が求められることになるということです。

例えば、働いている調剤薬局がコンビニと業務提携すれば、調剤業務だけでなくコンビニの業務も行ったり夜間の勤務を求められるようになるでしょうし、介護サービス事業会社と業務提携すれば、介護サービス業務の一部を担ったり他の事業者との連携といった役割が求められるようになると考えられます。

つまり、様々な業種の異業種企業の参入が相次ぎ、業務提携や合併が活発になり、業界再編の動きが進めば進むほど、「患者さんの様子を聞き取り、指定された薬を作り、説明する」といった従来の薬剤師の仕事から脱却することが求められ、従来のような医薬品の知識や調剤のスキルだけでなく、勤務先の環境の変化に伴って必要とされる知識や業務スキルを習得することが求められるようになるのです。

因みに、【前編】の冒頭でお話した福岡のテレビ番組で紹介されていたドラッグストアでは、店舗内の調剤薬局にドライブスルーを設置して、病気の子供連れや介護タクシーを使う高齢者等の車を降りたくない利用者に対処したり、独自に開発したアプリを使ってスマートフォンで処方箋の受付をしたり顧客管理をすることで待ち時間を無くしたり顧客の流出を防ぐ取り組みがなされており、そこで働く従業員は、特別な接客スキルやITスキルを身に付けている様子でした。

「そんなのは薬剤師の仕事ではない」という人もいるでしょうが、どうやら、近い将来には、そういった考え方が通用しなくなる可能性が高いと考えておいた方が良さそうです。

何れにしても、現在どのような考えを持っていたとしても、環境の変化に柔軟に対応出来ない薬剤師に対する評価が厳しくなってしまった後で、後悔する事だけにはならないようにしておいて欲しいと思います。
※それでも「絶対にそのような変化には対応したくない」という人の為に、そういった状況を避ける為の方法を2つ挙げておきます。

1つは、病院内の薬局で薬剤師として働くこと。

もう1つは、認定薬剤師や専門薬剤師として一つの分野に特化することです。

この2つの内の何れかになれば、例え勤務先が他の企業と業務提携や合併したとしても、働き方にそれほど大きな影響を受ける事はないと考えられます。

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想像も出来ないような変化が起きるかもしれません

異業種企業の参入によって、既存の業種やそこで働く薬剤師の方々にどういった影響があるのかはご理解頂けましたでしょうか?
ここまで様々なことを述べてきましたが、上記の内容は、あくまでも現状とそれぞれの企業の事業計画等を分析した結果から導き出されたものであり、予測している未来がそのまま現実になるとは限りません。

もしかすると、予期せぬ事態が起こったり、常識を覆すようなイノベーションが起こって、現在の状況からは想像も出来ないような未来が訪れる可能性もあります。

しかし、異業種企業の参入が増え、既存の常識や競争原理が変わり、従来のビジネスモデルが通用しなくなり、薬剤師に求められる役割や働き方が変わっていくといったことは間違いないと考えています。

薬剤師の皆さんには、どのような未来が訪れたとしても、しっかりと対応出来る心構えと準備をしておいて欲しいと思います。

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