異業種参入で薬剤師の将来はどう変わる?【前篇】

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異業種参入で薬剤師の将来はどう変わる?【前篇】

異業種企業の参入で何が起こる?

先日、九州の福岡に出張に行った際、たまたま見たテレビの経済番組で地元のドラッグストアの特集が放送されていたのですが、その内容は、そのドラッグストアの現状の取り組みや将来の見通しといったことだけではなく、調剤ビジネス全体の将来像を示唆する非常に興味深いものでした。

特に、異業種企業とのコラボであったり、多様なお客様のニーズに応えていく中で進化し続けていくそのビジネスモデルは、激しい競争を勝ち抜いて行く為の企業努力やビジネス戦略だけでなく、調剤ビジネスが担う役割や薬剤師に求められる役割と働き方が、将来的にどのように変わっていくのかも読み取れる事例だったように思います。

現在の調剤ビジネスを取り巻く環境では、どのようなことが起こっているのか?
それぞれの業種や企業は、激しい競争に勝ち抜く為にどのような対策を取っているのか?
環境の変化に伴って、薬剤師の役割や働き方はどのように変わっていくのか?

その番組の中で提起されていたこのような事柄は、新卒組や転職組を問わず、薬剤師として働くすべての方が知っておくべきことなのですが、実は、未だに自分の周囲の職場環境や給料や就業条件等の目先の事だけにしか目が向いていない薬剤師は少なくありません。

今はそれで問題は無いのかもしれませんが、他のコラムでも何回もお話しているように、薬剤師を取り巻く環境は大きく変化し始めており、近い将来には、現在と同じような感覚で働くことは難しくなっていきます。
厳しさを増していく経営環境、増え続ける異業種参入、加速する業界再編、お客様の調剤ビジネスに対する認識の変化、多様化するお客様のニーズ・・・等、あらゆる事が変化していく時代においては、将来を予測し、時代の変化に前もって対応していくことが、今後訪れる薬剤師同士の競争激化時代を生き抜いていく為に必要になってくるのです。

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今回のコラムは、業界に変化を及ぼすあらゆる要因の中から、近年、特に顕著な動きを見せている「異業種企業の参入」に焦点を当てていきます。

どのような異業種企業が参入しているのか
なぜ異業種企業の参入が増えているのか
異業種企業の参入によって何が変わるのか
異業種企業の参入によって薬剤師が担う役割や働き方はどのように変わっていくのか

こういったことについてお話していきますので、自分の周囲の環境を改めて見直し、今後の働き方や転職対策を考える機会にして頂ければと思います。

 

増え続ける異業種企業の参入

2009年6月の薬事法改正により、大衆薬の販売事業に参入する異業種の企業は一気に増え、業界は大きく変化しようとしています。
中でも特に目に付くのは、調剤薬局やドラッグストアといった既存の業種と、コンビニやスーパー等の流通小売企業との業務提携です。

ココカラファインとサークルKサンクス、マツモトキヨシとローソン、メディカルシステムネットワークとファミリーマート、セブンイレブンとアインファーマシーーズ、クオールとローソン、日本調剤とマツモトキヨシ、ウエルシアホールディングスとイオン・・etc

少しネットで調べただけでも、これだけの数の大手企業が業務提携していることが分かりますし、地方の企業レベルでも、多くの企業同士が厳しい競争で生き残っていく為の手段として積極的に業務提携を進めていることが分かります。
他にも、各大手商社、各種医療機関や介護サービス関連の事業会社、製薬企業の営業やマーケティング業務を行うCSO事業会社、医療関連の人材サービス会社、医療機関向け経営コンサルティング会社といった企業と既存の業種との業務提携の事例も数多く見受けられました。
また、変わった業務提携の形としては、ファーマライズホールディングスとヤマダ電機、クオールとビックカメラ、クオールとJR西日本といったものがあり、単に異業種企業といっても、その広がりは多岐に及んでいるようです。

このような業務提携が進んでいる理由は、法改正や規制緩和といったそれぞれの業界独自の事情だけでなく、高齢化社会の進行や、環境の変化に伴う消費者構成の変動ニーズの多様化等が考えられますが、多くの業界に共通しているのは、既存のビジネスモデルでは成長に限界があることが明らかになり、危機感が増大しているということです。
実は、上記に挙げたような業務提携の事例は、2009年の薬事法改正によって始まりましたが、業務提携契約を締結しただけで、その後は、新店舗の開設や既存店舗の改装といった具体的な施策にはほとんど手を付けていなかった事例も少なくありませんでした。

しかし、ここ1~2年の間で一気に風向きは変わり、多くの企業が新店舗の開設や既存店舗の改装等を急拡大させるようになったり、今後の事業計画を大幅に見直すような動きが活発化してきています。
これまでは、どちらかというと都市部で多く見られていた異業種企業の参入傾向も、あらゆる地方にまで波及しているようです。
この変化をどのように捉えどのように対応していくべきなのか、それは人それぞれ違ってくると思いますが、業界の多くの企業が大きく変化しようとしている以上、そこで働く薬剤師の方々もそういった認識は持っておく必要があるでしょう。

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異業種企業の参入が増える理由

上記の異業種企業の参入事例を見ても分かるように、業界に参入してくる異業種企業の種類や企業規模は多種多様であり、今後もこの流れは続いていくものと考えられています。
中には、医薬品の販売や調剤ビジネスとはまったく関係がなさそうな業種や企業も少なくありません。
(どこまで本気なのかは分かりませんが、今年の6月には、牛丼チェーン大手の「すき家」が、医薬品の販売や調剤ビジネスを行っていくという発表もありました。)

しかし、業界の情報や環境の変化に敏感な方はお分かりのように、調剤ビジネス業界の未来はそれほど明るい訳ではありません。
2012年の時点で、調剤薬局は約54000店舗、ドラッグストアは約17000店舗と既にオーバーストア状態にあり、激しい競争に負けた企業が淘汰されたり、企業間での合併も相次いでいます。

高齢化が進むことで増え続ける社会保障費を抑える為に、調剤報酬の改定や法改正や規制緩和等、今後も国は厳しい施策を取ることが予測されています。
厚生労働省では、大手調剤薬局の収益が高すぎるといった議論が続けられています。
膨大な店舗数に加え、病院の外来規制、マイナンバー制の施行、リフィル処方箋の導入検討、地域包括ケアシステムへの移行等によって、これまで最も重視されてきた「立地」という強みが大きく減少していくようになります。

売り手市場は終わりつつあるとはいっても、未だに、薬剤師の採用に苦労している企業は全国各地に数多く存在しています。

では、何故、このような厳しい状況であるにも関わらず、医薬品の販売や調剤ビジネスに参入する異業種企業の数は増えているのでしょうか?

それは、各々の業界や企業によって様々な事情や理由はありますが、最も大きな理由は、既存のビジネスモデルでは大きな成長が見込めないと考えている企業が、少しでも多くのお客を集める為の方策の一つとして、医薬品の販売や調剤ビジネスを手掛けるようになったからです。

この理由だけを聞けば、「そんなのは当り前」と捉える人もいるかもしれませんが、実はそう単純な事ではなく、このことには大きな意味が内包されています。
それは、参入してくる異業種の企業は、医薬品の販売や調剤ビジネスを一つの事業としてではなく、“集客手段の一つ”としか考えていないということです。
現に、参入してきた異業種の企業が、調剤薬局やドラッグストアそのものを経営している事例はほとんどありません。
既存の店舗や新規に開設する店舗等に従来とは違った客層を呼び込んだり、既存の事業に相乗効果をもたらす為の手段として、調剤薬局やドラッグストアといった既存の業種と業務提携しています。

例えばコンビニは、当初、単に商品を店頭を並べて売るというだけのビジネスモデルでしたが、24時間年中無休で営業するようになり、酒やたばこを並べ、コピー機を置き、宅配便を取り次ぎ、切手やハガキを販売し、銀行のATMを設置し、各種チケットの取次ぎを行い・・・と、様々なお客のニーズや要望に応えたり、新たな客層を取り込む手段としてあらゆる方策をとっていますが、医薬品の販売や調剤ビジネスもその一環に過ぎません。これは、スーパーや大規模商業施設や家電量販店にしても同じことです。

また、医療関係や介護サービス関係等の事業会社が医薬品の販売や調剤ビジネスを手掛けるのも、自社が行っている既存のビジネスの延長線上にある様々なニーズや要望に応える為の手段に過ぎないのです。
自分が一生懸命に行っている仕事やその事業形態が一つの事業として捉えられず、単なる集客の手段の一つに過ぎないと言われると、薬剤師の方や業界関係者にとってはあまり認めたくないのかもしれませんが、こういった認識は既に業界の内外を問わず常識となりつつあります。

実際、調剤薬局やドラッグストア業界の多くの企業でも、これまでの規模拡大路線を見直し、従来とは違った方針で事業計画を策定する動きが進んでいるようです。

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【後編】では、「異業種企業の参入が業界に与える影響」と「異業種企業の参入によって薬剤師に求められる役割や働き方はどのように変わっていくのか」についてお話していきます。

自分が働く業界や職場がどのように変わっていく可能性があるのか?
今後も必要とされる薬剤師になる為にはどうすればいいのか?

このようなことに興味を持たれた方は、是非、続けて読んでみて下さい。

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