ブラック薬局 , 薬剤師の実態・悩み - 薬剤師求人キャリアコラム -
処方箋41枚以上の薬局は、大丈夫なのか?
薬剤師の処方箋扱い枚数
薬剤師の業務内容や量は、応需している医療機関の数や科目、それらの医療機関から発行される処方箋の枚数と内容に大きく左右されますが、その処方箋に関しては、多くの薬剤師が以下のような疑問を抱えているようです。
「一人の薬剤師が1日に扱える(調剤できる)処方箋の枚数は、どうやって決まっているの?」
「処方箋の枚数が1日40枚を超えるとどうなるのか?」
「41枚以上の処方箋を扱っている職場で働いている場合、どうすればいいのか?」
今回のコラムは、こういった処方箋に関する疑問に答える形で進めていきたいと思います。
「一人の薬剤師が1日に扱える(調剤できる)処方箋の枚数は、どうやって決まっているの?」
法律では、以下のように定められてます。
・薬局及び一般販売業の薬剤師の員数を定める省令
(昭和三十九年二月三日厚生省令第三号)
最終改正:平成一六年七月九日厚生労働省令第一一二号
薬事法 (昭和三十五年法律第百四十五号)第六条第一項第一号の二 (第二十六条第二項及び第四項において準用する場合を含む。)及び第八十二条 の規定に基づき、薬局及び一般販売業の薬剤師の員数を定める省令を次のように定める。
(薬局の薬剤師の員数)
第一条 薬事法 (以下「法」という。)第五条第二号 の規定に基づく厚生労働省令で定める薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師の員数は、その薬局における一日平均取扱処方せん数が四十までは一とし、それ以上四十又はその端数を増すごとに一を加えた数とする。
2 前項の一日平均取扱処方せん数は、前年における総取扱処方せん数(前年において取り扱つた眼科、耳鼻いんこう科及び歯科の処方せんの数にそれぞれ三分の二を乗じた数とその他の診療科の処方せんの数との合計数をいう。)を前年において業務を行つた日数で除して得た数とする。ただし、前年において業務を行つた期間がないか、又は三箇月未満である場合においては、推定によるものとする。
(一般販売業の薬剤師の員数)
第二条 法第二十六条第二項 及び第四項 において準用する法第五条第二号 の規定に基づく厚生労働省令で定める一般販売業の店舗において薬事に関する実務に従事する薬剤師の員数は、一とする。
分かりやすく言うと、一人の薬剤師が扱える処方箋の数は、一日の平均が40枚までで、41枚を超える場合は、もう一人薬剤師を雇用する必要があるということ。
そして、その平均の枚数は、前年に処方した枚数で決まり、前年に業務を行った実績がない場合は推定によって決まるということです。
このような数が決められた根拠は、薬剤師の業務が、単純に調剤作業を行うだけでなく、処方箋の受付→薬歴の確認または薬歴の新規作成→処方箋監査(疑義があれば病院に照会)→薬袋の作成→調剤→鑑査→薬暦の記録・保管→服薬指導→薬の受け渡しと、多くのことを行う必要があり、それに掛かる時間と、一連の作業をミスしないように行えるだけの集中力を鑑みてのものです。
それに、調剤薬局やドラッグストアに勤務する薬剤師が行う業務の内容は、概ね上記の様になりますが、病院に勤務している薬剤師は、薬局には置いていないような薬や注射薬を調剤・製剤することもありますし、調剤以外にも医師や看護師と連携して患者に対応する為に必要となる業務も数多くあります。
また、一人の薬剤師につき処方箋の数は40枚までとなっていますが、実際に行う作業の量は、勤務する業態や、応需する医療機関の科目によって大きく異なります。
取り扱う薬の種類が少なければ楽なのですが、総合病院の門前薬局や、内科や耳鼻咽喉科から応需している薬局は、取り扱う薬の種類も多いですし、調剤の作業も手間が掛かるものが多く、日々の作業は大変なようです。
このように、薬剤師の員数と処方箋の枚数に関する省令は、上記のような「薬剤師の仕事は大変なので、1日に扱える処方箋の数は40枚が限界」という見解に基づいて定められました。
しかし、こういった見解とは逆の意見も、近年、散見されるようになっています。
上記の省令が定められたのは、昭和39年です。
すべての業務を手作業で行っていた時代に定められた省令は、電子化や機械化が進んだ今の時代には即していないという声もよく聞かれます。
実際に、最近では、処方箋の入力、ピッキング、調製、袋への封入までを自動で行うような機械を使用し、薬剤師が行う業務が大幅に減っているような職場も増えているようです。
また、相次ぐ規制緩和や薬価の改定、消費税の増税、人口の減少等の要因によって、薬局の経営は厳しくなっていくばかりで、倒産や廃業に追い込まれる薬局は増え続ける一方という声も各所から上がっているようですし、それらの声に応える方向で国や政府も動く気配を見せている、という話も耳にするようになりました。
ただ、定められた法律を守るのは当り前のことです。
その法律が、薬剤師の大切な職場である薬局の経営や、実際に職場で働く薬剤師の業務に悪い影響を与えるようであれば、時代に即した形に改正してもらえるよう声を上げる必要があるのかもしれませんが、だからといって、現在定められている法律を無視しても良いという訳ではありません。
薬剤師が行う仕事は、人の健康や生命に大きく関わるものであり、あまりにも多忙な労働環境は、大きなミスを生み出す危険性を伴います。
法律では、1日40枚と定められていますが、薬剤師が適切に処理できる処方箋の枚数は、その業態や職場環境によって違うはずです。
患者さんの健康と生命を守ることを第一に考え、それを確実に実行できるように、薬剤師の職場環境が整えられることが何よりだと思います。
「処方箋の枚数が1日40枚を超えるとどうなるのか?」
先程も述べましたように、法律を守るのは当り前のことです。
法律に従うのならば、薬剤師が1日に扱える処方箋の枚数は40枚までであり、41~80枚であれば2人の薬剤師、81~120枚であれば3人の薬剤師が必要になります。
しかし、実際には、「一人の薬剤師が1日に40枚以上の処方箋を扱うことがある」という職場も多いようですし、それが常態化しているという職場も少なくはないようです。
稀に勘違いしている人がいるのですが、40枚という数字は、あくまでも1日の平均です。
40枚を1枚でも超えたら、即、薬事法違反という訳ではありません。
患者さんの数が多い日少ない日もあるでしょうし、多い時期少ない時期もあると思います。
目が回るほど忙しい日が何日も続いたとしても、その分、他の日の患者さんの数が少なく、
1年を通しての処方箋枚数の平均が40枚以下であれば何も問題はないのです。
では、1日平均41枚以上の処方箋を扱っている場合はどうなるのでしょうか?
単刀直入に言うと、1日平均41枚以上の処方箋を扱っていれば薬事法違反になります。
しかし、現状、41枚以上の処方箋を扱っている病院や薬局の数は少なくありません。
その理由としては、薬事法に違反している疑いがある場合でも、実際に営業許可の取り消し処分に至るまでには、集団的個別指導→個別指導→監査と、いくつかの段階があり時間が掛かってしまうので、その都度適当な言い訳をしたり、何とか体裁を繕ったりして切り抜けようとする病院や薬局が多いということが考えられます。
また、自治体によっては、実際に指導や監査を行っている職員が甘かったり、お役所体質で本気で指導や監査を行う気がない、ということを耳にすることもあります。
つまり、上記に挙げた省令は、努力目標的意味合いとして受け取られ有名無実化しているというのが実状なのです。
なかには、すぐに監査を受けることになり、即営業許可の取り消し処分を受けた薬局もあるという話も聞きますが、そういった薬局は、処方箋の枚数以外にも、資格を持たない人間が調剤業務を行っていたりと、相当悪質で稀なケースだったようです。
そのような、意図的に法律を無視するブラックな薬局は他にもあるようですし、そういった薬局を経営する企業は、どんどん厳しく取り締まる必要があると思います。
しかし、現実的に処方箋の枚数を守っていないのは、職場で働く薬剤師が急に退職したり、病気や体調不良が長期化してしまい、早急に後任や補完的な役目を果たす薬剤師を採用する必要はあるが、薬剤師の不足が叫ばれている昨今の状況では、すぐにその穴を埋めることができない為、やむを得ず、41枚以上の処方箋を扱うようになっているという職場が多いようです。
「41枚以上の処方箋を扱っている職場で働いている場合、どうすればいいのか?」
現在、自分の働いている職場が、「薬剤師一人当たり、1日平均41枚以上の処方箋を扱っている」という人は、「薬事法違反=即退職」とあまり短絡的にならず、しっかりと考えるようにして下さい。
まず、その職場が、人手不足等の事情によって“やむを得ず”“一時的に”処方箋の数がオーバーしているのか、それとも、“意図的に”オーバーしているのか、それをしっかりと見極めるようにしましょう。
・“やむを得ず”“一時的に”処方箋の数がオーバーしている場合
必ずしも褒められた状況ではないのかもしれませんが、その他の業務内容や人間関係や勤務形態に問題や不満がないという場合には、体力的には少しキツいかもしれませんが、そのままその職場で働くことも悪くはないと思います。
「苦しい時に頑張ってくれた」「助けてくれた」と、上司や経営者に認めてもらえれば、その後の貴方に対する評価も違ってくるはずです。
それに、転職したからといって、今よりも良い職場に移れるとは限りません。
・“意図的に”処方箋の数がオーバーしている場合
早急に転職を考えることをお勧めします。
その他の業務内容や人間関係や勤務形態に問題や不満がないとしても、そういった状態を意図的に作り出したり放置しているような、モラルのない経営者や上司の下で働き続けたとしても良い事はありません。
今は処方箋だけの問題かもしれませんが、そういった経営方針を持っている企業であれば、今後の業績如何によっては、別の法律に違反するようなことを行う可能性もあります。
また、急に監査が入って即営業許可取り消し状態になってしまった場合、貴方の立場はどうなりますか?今の職場が何らかの補償をしてくれますか?よく考えてみて下さい。
※法律に違反しているような職場で働いている人に、「関係省庁にすぐに通報したり、告発すること」を勧める人もいるようですが、私は止めた方が良いと思います。
そんな事に頭を悩ませるよりも、如何にして退職するかに頭を使うべきです。
内部告発者の保護制度があるとはいいますが、そんなものをアテにしてはいけません。
万が一、貴方が告発したことによって営業許可が取り消しになってしまった場合、大きな恨みを買ってしまう恐れがあります。
元々、法律を守らないようなモラルのない人間の恨みを買うような事は避けるべきです。
以上、処方箋に関する「よくある疑問」にお答えしてきましたが、ご理解して頂けましたでしょうか?
薬剤師にとっては、定められた法律を守り、適切な枚数の処方箋しか扱わない職場で働くことが理想ですが、こういった問題は、実際に働き出した後に分ることが多いものです。
もし、就職した病院や薬局が、決められた処方箋の数を守っていなかったり、守らなくなったという場合には、当コラムの内容を思い出してもらえれば幸いです。